MCI(軽度認知症)チェックプログラム
【MCIとは?】
軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)とは、アルツハイマー病など認知 症とはいえないものの、正常ともいえない状態をいいます。 このような状態が注目されるわけは、根本治療薬の開発により認知症の早期発見が有効な 治療につながる可能性が出てきたからです。
【軽度認知症早期発見の重要性】
誰しも自分が認知症に罹患しているとは思いたくありません。そのため、家族・友人・ 近隣の人など、周囲の人がそれを心配しても、専門医受診となるとそう簡単には腰が上がり ません。そうしたこともあって、認知症の早期発見は難しいと言われてきました。 ところが2021年にアルツハイマー病の根本治療薬(正しくは疾患修飾薬)の第1号が海外でよ うやく現れ、後続もでてきました。いずれも早期であるほど治療効果が期待できると言われて います。 また認知症では、主たる介護者は「第2の犠牲者」と言われてきたように、認知症の介護負担 は甚大です。それだけに、早期からの介護計画の立案が求められます。このように近年、早期 発見・早期対応の言葉には現実性が高まっているのです。
【認知症早期発見に関する課題】
非専門家にとって、認知症の前駆期や初期をどのように判断したらよいかが分からないの が普通です。インターネットで検索をしても情報は入り乱れ、信頼性のある情報を見抜く ことは簡単ではありません。 また世間で知られた知能テストを本人に実施しようとしても、「自分が試されている」と ほとんどの人が嫌がります。このような状況を考えたとき、どうやって確かな情報を得て、 その結果に基づいて専門家を訪ねたらよいかが課題になります。
【J-MCIチェックプログラムの特徴】
日本老年精神医学会という日本で最も伝統ある認知症の専門学会において、ワーキンググ
ループを立ち上げ、非専門家による判断や早期発見に関する問題・チェックリストの作成
に取り組んできました。
J-MCIと名付けたチェックリストの特徴は次のようになります。まず、回答者が本人であれ、
家族であれ、そして医療関係者であれ、誰がやっても正しい答えが出ます。つまり、本人
は過小評価し、家族は過大評価しがちだといえますし、そして、医療関係者はその中間と
いえるでしょう。そこで、まずは正しい回答を得るためのアルゴリズムあるいは計算式を
作りました。
次に認知症はアルツハイマー病だけではないし,その原因は70以上もあるといわれます。
特に大切なのがレビー小体型認知症と前頭側頭型認知症かと思われることから、質問には
アルツハイマー病だけではなく、数は少なくても大切な病気を指摘できる質問もいれました。
また「チェックは認知症である」などと答えを断定せず、正しいチェックとして考えられる可能性の
高さから順に並べています。
【J-MCIチェックプログラムができるまでの経緯】
実際の作成過程においては、まず多くの医学書から認知症の最初の症状といわれるものを
選びました。次に専門医で構成されたワーキンググループのメンバー全員で討論して質問
項目を取捨選択しました。さらに自分たちの施設の実際の患者さんで実施してみて、どの
質問が正確なチェックに結びつくかという観点から設問を選択しました。最後に、日本老年精
神医学会の評議員67名の協力を得て、それぞれの施設の患者さんにおいて試しました。
以上のプロセスを経て、13の質問が選ばれました。実際にやってみるとかなり高い精度で
「認知症」「軽度認知障害」「正常」であるというチェックを得ることができました。
これは世界的な医学雑誌のひとつに掲載されています。
J-MCIというこのチェック測度は、あくまで認知症の危険性をみるものです。チェックリストを
行った結果、心配が少しでもあるならば、必ず専門医を受診されることを薦めるものです。